コラム

射出成形金型における離形不良「キャビ取られ」の原因と対策方法

射出成形における「キャビ取られとは」

当社はよくお客様に、射出成形金型における「離型不良」のご相談を頂きます。

キャビ取られとは、成形後に固定側の金型に成形品が張り付いてしまい、うまく離型できなくなる現象です。金型を新調したころは、うまく離型出来ていたのに使用しているうちに離型不良になった、というご相談をよく頂きます。射出成形の大きな利点の一つとして、無人で大量生産が可能な点がありますが、キャビ取られが起こってしまうと、人が取り外さなければいけなくなることや、取り出す際に成形品にキズが付くことや、最悪の場合、金型の破損に繋がる可能性もあります。そのため、射出成形においてキャビ取られというのは、注意を払わなければいけない不良の一つです。

キャビ取られがなぜ発生するのか

続いて、キャビ取られがなぜ発生するのかについてご説明します。キャビ取られの原因は、主に金型側に問題がある場合と、成形条件に問題がある場合があります。それぞれご説明します。

金型側に問題がある場合

金型を新調したばかりで、キャビ取られが発生する場合は、金型の設計自体を見直す必要があります。新しい金型でキャビ取られが発生する場合は、キャビ内面の面粗さが粗い、抜き勾配が小さい、金型にアンダーカット部があるなどの原因が考えられます。

金型を新調したばかりの時はうまく離型ができていたのに、使用に伴いキャビ取られが発生するようになってきた場合、金型のキャビティの表面に問題がある場合が多いです。使用に伴い、金型のキャビティ面に小さなキズやへこみなどの表面欠陥がある場合は、成形品が金型に付着しやすくなり離型が困難になります。

成形条件に問題がある場合

また、成形条件に問題がある場合も、キャビ取られが発生することがあります。射出圧力が高すぎること、溶融樹脂が固化し切っていない、金型の固定側と可動側の温度のバランスが不適切なことなどが考えられます。

キャビ取られの発生を予防するには

本記事では、金型を新調したばかりの時はうまく離型ができていたのに、使用に伴いキャビ取られが発生するようになってきた場合の対処法についてご説明します。金型のキャビティの表面欠陥がある場合、表面処理をすることで離型不良が解決します。離型不良を解決するための表面処理は、イエプコ処理とDLCコートという表面処理があります。

イエプコ処理

イエプコ処理は、クリーニング処理工程とピーニング処理の2工程からなる表面処理です。クリーニング処理では、金型のキャビティにランダム形状の粒子を吹き付けることで、白層、バリ、カエリ、ドロップレット、マイクロパーティクルを除去することで、変質物のない表面に仕上げます。その後のピーニング処理では、球形の粒子を吹き付けることで、微細な割れやマイクロポロシティを塞ぎます。イエプコ処理をすることで、表面の平滑化、緻密化をすることで、キャビ取られを改善することができます。

DLCコート

DLCコートはキャビティの表面に、炭素を主体とする薄い膜をナノレベルでコーティングすることで、摩擦性を調整する表面処理です。DLCは(Diamond Like Carbon)の略で、ダイヤモンドとグラファイトの結晶構造が混在する物質で、金型のキャビティの表面にコーティングすることで、均一かつ滑らかな表面を形成し、表面の摩擦を減少させることができるため、離型性を改善することが出来ます。

イエプコ処理とDLCコートはどちらを選択するべきか

イエプコ処理とDLCコートは、どちらも離型不良を改善することができますが、当社はイエプコ処理をすることをおすすめいたします。

まずどちらが離型性が向上するかという点に関しては、イエプコ処理とDLCコートはほとんど同程度の離型性の向上が見込めます。

※イエプコ処理後175 kgf、くもり面を鏡面加工後260 kgf

上記図は、当社が過去に行った各処理の抵抗値の比較の結果を示したグラフですが、イエプコ処理とDLCコートを比較するとほとんど同じ抵抗値を示しました。

当社がイエプコ処理をおすすめする理由としては、コスト、処理の柔軟性、処理にかかる時間、この3点があります。

DLCコートは、イエプコ処理に比べ、20倍程度のコストがかかります。また、高い硬度でコーティングするため、再コーティングが難しいなど、処理の柔軟性もイエプコ処理に比べ劣ります。また、DLCコートはイエプコ処理に比べ、処理にかなり長い時間がかかります。イエプコ処理であれば金型を定期的に分解しオーバーホールする際に、同時にイエプコ処理を行うなども可能ですので、結果的にイエプコ処理を行うほうが金型の長寿命化に繋がる場合があります。

当社のイエプコ処理サービスの3つの特徴をご紹介!

当社は長年にわたり、様々な金型に対してイエプコ処理を行ってきました。そんな当社のイエプコ処理サービスの特徴を3つご紹介します。

⓵年間50件以上のイエプコ処理に対応!

イエプコ処理は、表面の加工を行うピーニング処理の中でも難易度が高い処理方法です。一般的に、他の加工会社では、高い技術と専門知識を必要とする表面処理を外注により対応します。しかし、「よりお客様の要望に近づけたい」「より高品質な製品を提供したい」という想いから、年間50件以上のイエプコ処理を加工(製作)から表面処理まで、一貫対応しています。

②金型の耐久性・離型性を高め、金型の長寿命化と生産性向上を実現!

イエプコ処理の特徴は、

・錆や腐食防止など金型の耐久性を高めること

・金型と製品の離型性を高めること の2つがあります。

これらの特徴は金型の長寿命化を実現することに加え、歩留まり向上や不良率の低下により、金型の生産性を向上させることができます。

当社のイエプコ処理は、金型に関する豊富な知識と処理を行う高い技術により、あらゆる金型の成形パフォーマンスを上げることができます。

③超硬の金型の加工も可能

金型くん!メンテ改造ラボを運営する扶桑精工では、他社製、海外製、古い金型のイエプコ処理も対応しております。お持ち込み頂いた金型製品の利用用途や使用状況に合わせたイエプコ処理により、お客様が抱える金型の課題解決をお手伝いします。さらに、当社では製作直後の金型から、使用済みの金型の表面処理までお引き受けしています。

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よくご相談を頂く離型不良に関するお問い合わせ

当社がよくご相談いただく離型不良のお問い合わせを2つご紹介します。

1. 長期間使用した射出成形金型の離型不良をイエプコ処理により改善

ご相談内容
お客様から、金型を購入したばかりのころはうまく離型出来ていたが、金型を使用し続けるうちに離型不良が発生するようになったとご相談いただきました。

ご提案
こちらは上記でご説明したように、使用に伴うキズやへこみが発生したことによる離型不良でした。金型には離型性を向上させるための縦方向の溝がありますが、何度も使用するうちに摩耗してしまったり、樹脂汚れが詰まってしまい、離型不良の原因になっていました。そこで当社は、イエプコ処理を行うことで、離型性の向上をいたしました。イエプコ処理の過程で、小さなキズや樹脂汚れは除去できるため、イエプコ処理が最適だと判断いたしました。
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2. 海外製金型の初期不良に再加工で離型性を改善

ご相談内容

お客様から、海外製の金型を使用しているが離型不良が発生して困っているとご相談いただきました。海外の製造元に修理や再設計の依頼を出す場合、往復で半年程度など多くの時間がかかるため、当社にご相談いただきました。

ご提案
海外製の金型は、日本で造られた金型に比べ、施工が雑になっている場合が多く、離型不良が発生しやすい傾向があります。また、ひどいものだと金型を購入したばかりでも離型不良が発生するといったことも稀にございます。そのため、当社で金型の再加工を行い、形状を修正した後、イエプコ処理を行いました。当社では、海外製の金型のお客様の抱える問題にもご対応できる技術力を持っています。
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金型に発生する不具合なら、金型くん!メンテ改造ラボにご相談ください!

 本記事では、射出成形金型における不良「離型不良」の原因と対策方法についてご紹介しました。

金型くん!メンテ改造ラボを運営する扶桑精工では、社内にて高い設計標準を設定しているため、高品質な金型製作を実現を可能にしています。デンソー様を始めとした大手自動車部品メーカーの設計標準の品質も確保しており、寸法精度が高く、バリが発生しないなど高品質・長寿命な金型をお届けすることが可能です。
金型設計・製作だけではなく、金型の修理・メンテナンスまで一貫対応いたしますので、金型に関してのお悩みの際は、是非一度お気軽にご相談ください。
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