射出成形金型の基礎
射出成形とは
溶かしたプラスチックを高圧で金型に射出し、冷却することで製品を形作ります。射出成形は、プラスチック製品を大量生産するための主要な成形方法の一つです。具体的には、この方法は、プラスチック容器、玩具、自動車部品、医療機器など、多くの分野で使用されています。
射出成形金型の基本構造
射出成形金型は、複雑な形状の製品を作り出すために、多くの部品で構成されています。ここでは、その中でも特に重要な基本的な構造要素について解説します。
固定側(キャビティ側)と可動側(コア側)
金型は、一般的に「固定側(フィックスドサイド)」と「可動側(ムービングサイド)」の2つの主要な部分に分かれています。
- 固定側:射出成形機のノズルが接続され、溶融した樹脂が最初に流れ込む側です。製品の外側の形状を形成する「キャビティ」と呼ばれる金型では凹状の空間が設けられている事が多いですが、固定側に「コア」と呼ばれる凸状の部分を配置するケースもあります。
- 可動側:成形後に金型が開く際に移動する側です。製品の内側の形状を形成する「コア」と呼ばれる金型では凸状の部分や、製品を取り出すための機構が組み込まれています。 製品によっては、凹状の「キャビティ」側を可動側に配置するケースもあります。
ゲート(湯口)
溶融したプラスチック材料が金型内部のキャビティに流れ込むための入り口が「ゲート(湯口)」です。ゲートの位置や形状は、樹脂の流れ方、充填時間、ウェルドラインの発生などに影響を与えるため、製品の品質に大きく関わります。代表的なゲートの種類としては、スプルーゲート、サイドゲート、フィルムゲート、ピンゲートなどがあります。
ランナーとスプルー
射出成形機のノズルから射出された溶融樹脂は、まず「スプルー」と呼ばれる太い通路を通り、その後、複数のキャビティに分岐する「ランナー」と呼ばれる細い通路を通って各ゲートへと導かれます。ランナーの設計は、樹脂の圧力損失を抑え、各キャビティへの均等な充填を実現するために重要です。
キャビティとコア
「キャビティ」は、製品の外側の形状を形成する、金型では凹状の空間であり、「コア」は、製品の内側の形状を形成する、金型では凸状の部分です。これらの形状精度が、最終的な製品の寸法精度や形状を決定します。
パーティングライン(PL面)
固定側と可動側の金型が合わさる面のことを「パーティングライン(PL面)」と呼びます。PL面の設定は、製品形状、抜き勾配、ガスベントの位置などに影響を与えるため、金型設計において重要な検討事項の一つです。
冷却回路
射出された溶融樹脂を効率的に冷却・固化させるための「冷却回路」は、金型内部に設けられた水や油などの冷媒が循環する通路です。冷却効率は、サイクルタイムを短縮し、製品の変形を防ぐために非常に重要です。
エジェクタ機構(突き出し機構)
成形完了後、金型から製品を取り出すための機構が「エジェクタ機構(突き出し機構)」です。エジェクタピン、エジェクタプレート、ストリッパープレートなど、製品の形状やサイズ、取り出し方法に応じて様々な種類があります。
ガスベント
金型内部に閉じ込められた空気やガスを外部に排出するための溝や穴が「ガスベント」です。ガスベントが不十分だと、ショートショット(樹脂の充填不足)や焼け(樹脂の熱分解)などの不良が発生する可能性があります。
射出成形金型の製作ポイント
材料選定
金型の材料は、生産性、使い勝手、寿命、耐久性に影響を与えるため、適切な材料を選ぶことが重要です。例えば、鉄素材は熱伝導が高く冷えやすいため、サイクルタイムを短縮することができます。一方で、ステンレス素材は錆が出にくく、メンテナンスの間隔を延長することができます。このように、素材によってメリットが大きく異なるので、技術者の知見も活用し、金型の用途に合った素材を選定することが重要です。
設計
3DCADを用いて、製品の形状や寸法を詳細に設計する他、歪みを考慮して設計する必要があります。金型は成形過程で熱の影響を受け、変形してしまうことも珍しくありません。そのため、成形過程での歪みや縮小率も考慮に入れた設計が重要です。
表面仕上げ
金型の当たり面は滑らかで、離型性が高くなければなりません。そのため、金型の用途や使用状況に合わせて最適な方法で表面仕上げを行う必要があります。代表的な表面仕上げの工法としては、「研磨処理」 「ピー二ング処理」 「めっき処理」があります。
テスト
初めての金型製作では、テストを重ねることが重要です。テストを繰り返すことで、製造ラインを止めずに新製品を導入することができます。さらに、テスト段階で課題を明らかにし成形品と金型そのものの品質を確保することができます。
射出成形金型で発生しうる不良と対策
ガス焼け
溶融したプラスチックを金型に注入する際に、金型内に空気が閉じ込められたり、プラスチックからガスが発生します。この時、ガスがうまく排出されないと、圧縮されて高温になり、樹脂と接触する部分が焼けて変色したり、焦げ付いたりする現象がガス焼けです。ガス焼けが発生すると、製品の外観不良や強度低下が発生します。
ゲート残り
ゲート残りとは、製品から切り離されるべきゲート部分が残ってしまう現象で、製品の品質や機能に悪影響を及ぼす可能性があります。また、製品の外観を損なうだけでなく、強度低下や機能不良を引き起こす可能性も孕んでいます。
反り
反りは、金型内では正確な形状だった成形品が、取り出し後に変形してしまう現象を指します。この現象は「曲がり」や「ねじれ」とも呼ばれ、製品の品質に大きな影響を与えます。
反りの発生によって、「製品の外観品質の低下」「部品間の隙間発生」「製品の耐久性低下」「追加工程の増加による生産効率の悪化」「組立時の相手部品との干渉」といった問題が発生します。
バリ
射出成形におけるバリは、特に金型を使用してプラスチック樹脂を成形する際に発生する不良の一種です。具体的には、溶融した樹脂が金型のキャビコアの合わせ面(PL面)や突き出しピンなどの隙間に沿って流れ込み、製品のエッジや金型部品の境界部分に形成されることがあります。このように成形品の形状からプラスチック樹脂がはみ出した状態がバリです。
バリが発生すると、製品の外観や機能に影響を与える可能性があり、除去が必要になり工数が増加してしまいます。
離形不良(キャビ取られ)
キャビ取られとは、離形不良の一種で、成形後に固定側の金型に成形品が張り付いてしまい、うまく離型できなくなる現象です。金型を新調したころは、うまく離型出来ていたのに使用しているうちに離型不良になったという事例がまさにキャビ取られの事例です。
キャビ取られが起こってしまうと、人が取り外さなければいけなくなることや、取り出す際に成形品にキズが付くことや、最悪の場合、金型の破損に繋がる可能性もあります。
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