金型製作に欠かせないワイヤー放電加工とは
近年、製造業において自動化や効率化が加速する中、高精度な金型製作の需要はますます高まっています。その中で、複雑な形状を高い精度で加工できるワイヤー放電加工は、金型製作に欠かせない技術として注目されています。
本記事では、ワイヤー放電加工の仕組みやメリット・デメリット、そして金型製作においてなぜ重要なのかを解説していきます。
ワイヤー放電加工とは
ワイヤー放電加工(ワイヤーカット)とは、細い金属ワイヤーを電極として用い、ワーク(加工物)との間に発生させる微細な放電によって金属を溶かしながら切断する加工方法です。ワイヤー線の直径は非常に細く、0.1mmから0.3mm程度のものが一般的です。この細いワイヤー線を用いることで、複雑な形状や微細な加工を高精度に実現することができます。またワイヤー放電加工では、加工液と呼ばれる液体を使用します。加工液は、主に純水が使われ、放電によって発生する熱を冷却し、加工屑を洗い流す役割を担います。これにより、安定した加工と高精度な仕上がりを実現することができます。
ワイヤー放電加工は、その高い精度と複雑な形状への対応力から、金型製作をはじめ、精密部品加工や試作品製作など、様々な分野で活用されています。
ワイヤー放電加工の仕組み
①ワイヤーのセット
まず、加工に使用するワイヤーを加工機にセットします。ワイヤーはスプールに巻き取られており、加工中に常に新しいワイヤーが供給されるようになっています。
②加工液の注入
次に、加工機内の加工槽に加工液を満たします。加工液は、主に純水や油 が使用されます。加工液は、放電によって発生する熱を冷却し、加工によって生じる金属の屑を洗い流す役割を担います。また、加工液はワイヤーとワークの間の絶縁体としても機能し、安定した放電を維持するのに役立ちます。
③放電
ワイヤーとワークの間に高電圧をかけると、両者の間で微小な放電が発生します。この放電は、スパークとも呼ばれ、瞬間的に数千℃という高温になります。この熱によって、ワークの表面が溶融・蒸発し、除去されます。放電は、コンピュータ制御によって正確に発生させることができ、加工精度を確保しています。
④ワイヤーの移動
ワイヤーは、NC(数値制御)によって精密に制御され、設計通りの形状に沿って移動していきます。ワイヤーは、上下2つのガイドによって正確な位置に保持され、X、Y、U、Vの4軸方向に移動することで、複雑な形状の加工に対応します。加工中は、ワイヤーの張力や送り速度などが常に監視され、最適な加工条件が維持されます。
このように、ワイヤー放電加工は、細いワイヤーと微細な放電、そして精密な制御によって、高精度かつ複雑な形状の加工を実現する技術です。
ワイヤー放電加工のメリット
①ワークの硬さ、厚みに関係なく加工可能
ワイヤー放電加工は、放電を利用して金属を溶融・蒸発させる加工方法であるため、ワークの硬さに影響が少なく加工できます。焼き入れされた硬い鋼材や超硬合金など、切削加工では困難な材料でも容易に加工することができます。また、厚みのあるワークでも、ワイヤーを通せる隙間さえあれば加工が可能です。
②複雑形状の加工ができる
ワイヤー放電加工は、NC制御によってワイヤーを精密に動かすことができるため、複雑な形状や微細な加工を高精度に実現できます。例えば、鋭角なコーナーや微細なスリット、複雑な曲線形状なども、ワイヤー放電加工であれば容易に加工することができます。
③精度が非常に高い
ワイヤー放電加工は、µm(マイクロメートル)単位の精度で加工できるため、高精度な金型製作に最適です。金型は、製品の寸法精度や表面品質を直接左右する重要な部品であるため、高い精度が要求されます。ワイヤー放電加工は、この要求に応えることができる数少ない加工方法の一つです。
④バリが出ない
ワイヤー放電加工では、切断面が滑らかでバリが出ないため、後工程の処理を軽減できます。バリとは、加工後にワークの edgesに残る不要な突起のことです。バリがあると、製品の外観不良や機能不良の原因となるため、除去する必要があります。ワイヤー放電加工では、バリの発生がほとんどないため、後工程のバリ取り作業を省くことができます。
⑤ワークのダメージが少ない
ワイヤー放電加工は非接触型の加工方法であるため、ワークに熱的・機械的なダメージを与えにくいです。切削加工では、工具とワークの接触によって、ワークに熱や応力が発生し、変形や劣化を引き起こす可能性があります。一方、ワイヤー放電加工では、ワイヤーがワークに直接接触しないため、これらのダメージを最小限に抑えることができます。
ワイヤー放電加工のデメリット
①底のある形状だと加工できない
ワイヤー放電加工では、ワイヤーを通す必要があるため、底のある形状や中空の形状は加工できません。例えば、完全に閉じた箱状の形状や、内部に空洞がある形状などは、ワイヤーを通すことができないため、加工することができません。
②加工速度が遅い
ワイヤー放電加工は、微細な放電を繰り返して加工するため、切削加工などに比べると加工速度が遅くなります。特に、厚みのあるワークを加工する場合には、加工時間が長くなる傾向があります。そのため、大量生産には不向きな加工方法と言えます。
③通電しないワークは加工できない
ワイヤー放電加工は、放電を利用した加工方法のため、セラミックスや樹脂など、電気を通さない材料は加工できません。電気を通す導電性の材料のみが加工対象となります。
④水平方向しか加工できない
ワイヤー放電加工は、基本的に水平方向の加工しかできないため、複雑な3次元形状の加工には制限があります。近年では、傾斜加工や回転加工など、3次元加工に対応したワイヤー放電加工機も開発されていますが、それでも複雑な3次元形状を自由に加工できるわけではありません。
金型製作にワイヤー放電加工が欠かせない理由
金型製作は、製品の品質を左右する重要な工程です。高精度で複雑な形状の金型を製作するために、様々な加工技術が用いられますが、その中でもワイヤー放電加工は欠かせない存在となっています。なぜワイヤー放電加工が金型製作に不可欠なのか、具体的な理由を3つに分けて詳しく解説していきます。
①ワイヤー放電加工でしか実現できない形状がある
金型には、製品の形状を忠実に再現するために、様々な形状が求められます。例えば、コネクタや電子部品の金型には、髪の毛よりも細い溝や穴が必要となる場合があり、ワイヤー放電加工であれば、0.1mm以下のワイヤーを用いることで、このような微細な加工を高精度に実現できます。
また、自動車部品や家電製品の金型には、複雑な曲面形状が求められることがありますが、ワイヤー放電加工は、NC制御によってワイヤーを自由に動かすことができるため、複雑な曲面形状も忠実に再現できます。
さらに、抜き勾配のない形状を製作する必要がある場合も、ワイヤー放電加工が有効です。抜き勾配とは、金型から成形品をスムーズに取り出すために設ける傾斜のことですが、製品によっては、抜き勾配を設けることができない場合があります。ワイヤー放電加工であれば、抜き勾配のない形状でも、ワークを垂直に切断することで、金型を製作することができます。このように、ワイヤー放電加工は、微細な溝や穴、複雑な曲面形状、抜き勾配のない形状など、切削加工やレーザー加工では加工が難しく、ワイヤー放電加工でなければ実現できないケースが多い形状に対応できるという点で、金型製作に欠かせない技術となっています。
②マシニングセンタでも加工可能だが応力をかけたくないとき
マシニングセンタなどの切削加工でも複雑な形状を加工することは可能ですが、工具とワークの接触によって、ワークに大きな応力がかかってしまいます。特に、三日月のような形状や薄い板状のワークの場合、加工後に反りが発生しやすくなります。
一方、ワイヤー放電加工は非接触型の加工方法であるため、ワークに応力をかけずに加工することができます。そのため、加工後の変形や歪みを抑制し、寸法精度を維持することができます。また、切削加工では、工具の摩耗によって加工精度が低下することがありますが、ワイヤー放電加工では、常に新しいワイヤーが供給されるため、安定した加工精度を維持することができます。
③金型には高い精度が要求される
金型は、製品の品質を左右する重要な部品です。そのため、金型製作には非常に高い精度が要求されます。ワイヤー放電加工は、µm単位の精度で加工できるため、高精度な金型製作に最適です。金型の寸法精度や表面粗さが製品の品質に直結するため、ワイヤー放電加工の高い精度は、高品質な製品を製造するために不可欠です。
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本記事では、金型製作に欠かせないワイヤー放電加工についてご紹介しました。
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